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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和34年(わ)157号 判決 1960年7月19日

被告人 木田熊人

昭九・七・一〇生 採炭夫

坂本洋平

昭八・三・二八生 無職

主文

被告人木田熊人を死刑に

被告人坂本洋平を懲役十五年に各処する。

被告人坂本洋平に対し未決勾留日数中三百日を右本刑に算入する。

押収にかかるジヤツクナイフ一本(証第十一号)は被告人木田熊人から、桜太刀一本(証第十二号)は被告人坂本洋平からそれぞれ没収する。

理由

(罪となる事実)

被告人木田熊人は昭和二十四年三月長崎県松浦市志佐中学校卒業後、父喜三郎の働いていた同市今福町所在中島鉱業株式会社上野炭坑に抗夫として勤務し、その後同町土井の浦炭坑等を転々し、昭和三十二年五月佐世保市口の尾町浅田鉱業株式会社の西肥炭坑に堀進夫として働いたりしたが翌年五月再び松浦市に戻り昭和三十四年二月から同市今福町所在上田鉱業所の飛島炭坑に採炭夫として働いていたもの、被告人坂本洋平は、昭和二十一年同県北松浦郡福島町の尋常高等小学校を卒業後船大工の見習をしたり実家の農業の手伝等をしていたが、その後前記土井の浦、西肥各炭坑等で被告人木田と共に働き又採石場の現場監督などもやつたが、昭和三十四年二月末ごろからは実家で農業の手伝をしていたものであり、両名はかねて知り合いの仲であつたが、昭和三十四年三月二十七、八日ごろ被告人坂本が被告人木田方を訪ね共に飛島炭坑に働くべく就職方を依頼し、一旦は就職することに定まつたものの、結局坂本は就職するに至らず同年四月一日ごろ被告人両名は連れ立つて伊万里市方向に遊びに行つたりするうちに小遣銭に窮し、

第一、両名共謀の上、同年四月四日午前一時ごろ伊万里市相生町乙一二二番地佐藤時成方から同人所有の背広上衣一着(時価八千円相当)、トランジスターラジオ一台(時価六千円相当)を窃取し、

第二、前記窃盗を犯した後、盗品の前記ラジオ被告人木田の名前で佐世保市内の質屋に質入れしたりしたので、被告人両名はそこから犯行が発覚しはしないかと心配し、加うるに前記飛島炭坑に戻つて生業にいそしむ気持も失つていたので両名は相語つてしばらく所在を晦ますため、同年四月九日ごろ被告人坂本の情婦椎山節子(当十八年)をも誘つて伊万里市方面から佐世保市方面に亘り徘徊しながら遊興中金員に窮した結果、被告人両名は同月十三日佐世保市三川内本町三五三番地日用雑貨品販売業本山巖方が老夫婦の二人暮しであることに目をつけ、右夫婦に暴行脅迫を加えて金品を強取しようと共謀し、あらかじめ同市早岐町二百二十一番地宮田金物店から被告人木田がジヤツクナイフ(証第十一号)被告人坂本が桜太刀(証第十二号)をそれぞれ買求めて準備を遂げ、翌十四日午前二時ごろ椎山節子を伴つて前記本山方裏口に至り同女をその場に待たせ、被告人両名は各自風呂敷等で覆面をなし午前二時過ごろ同家裏側を通過する貨物列車の騒音を利用して同家裏手窓硝子を破壊し板戸の掛金をはずし同家裏口から屋内に忍び込み、被告人木田は前記ナイフを右手に擬した上同家炊事場にあつた出刃庖丁をも携え被告人坂本と共に金員を物色し、奥六畳間の前記老夫婦の寝室の近くに至るや被告人坂本も前記桜太刀を擬し被告人木田において右寝室の襖を開けるや本山巖(当七十一年)が目をさまし「誰か」と誰何しながらいきなり懐中電燈で照らしたので驚き、被告人木田は咄嗟に同人を殺害することを決意し、矢庭に所携の前記ジヤツクナイフで同人の右胸部めがけて一回突き刺し、よつて同人に右胸部刺創(深さ約八糎、第四肋骨の胸骨端を切り心臓大動脈起始部に達する。)を負わせ、その場において同人を右刺創に基く失血多量のため即死せしめ、更に同人の妻ミ子(当六十三年)が目をさまし起上ろうとしたので、被告人両名は同女を両手で押えつけたり掛布団をかぶせたりする等の暴行を加えその反抗を抑圧したうえ、「金は何処にあるか早く出せ。」と要求し、金の在り場所を聞くや先づ被告人両名は現金二万円余を強取し、ついでその場に有合わせの布切れで同女にさるぐつわをしようとしたが同女が抵抗して大声で助けを求めるので被告人木田は本件犯行の発覚を恐れて同女を殺害することを決意し、同女が手を合わせて助けを求めるにもかかわらず、矢庭に前記ジヤツクナイフで同女の背部、頸部等を連続して各一回突き刺し、よつて同女に右背部刺創(深さ約八糎、第七肋骨を切断し左肺下葉の上後部を刺通し大動脈左側組織に達する。)並びに右頸部刺創(深さ約八糎気管上部の右側及びこれに接する食道の各三分の二を切断する。)を負わせ、右刺創二箇に基く失血多量のためまもなく同女を死亡するに至らしめてその目的を遂げたうえ逃走し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

法律に照らすと被告人両名の判示第一の所為は刑法第二百三十五条、第六十条に、判示第二の所為中住居侵入の点は同法第百三十条、第六十条に、強盗殺人の点は各同法第二百四十条後段、第六十条にそれぞれ該当するところ、住居侵入と各強盗殺人とは手段結果の関係にあるから同法第五十四条第一項後段、第十条により被告人両名につき重き本山ミ子に対する強盗殺人罪の刑に従うこととし、以上は被告人両名につき同法第四十五条前段の併合罪であるが、右強盗殺人の罪につき所定刑中被告人木田につき死刑を、被告人坂本につき無期懲役刑を選択すべきを以て同法第四十六条により被告人両名につき前記窃盗の刑を科せず、被告人木田を死刑に処し、被告人坂本を無期懲役に処すべきところ、坂本については犯情憫諒すべきものがあるから、同法第六十六条、第七十一条、第六十八条第二号を適用して酌量減軽した刑期範囲内において同被告人を懲役十五年に処し、同法第二十一条により同人の未決勾留日数中三百日を右本刑に算入し、押収にかかるジヤツクナイフ一本(証第十一号)は被告人木田が、桜太刀一本(証第十二号)は被告人坂本が判示第二の犯行の用に供したものでいずれも被告人両名以外のものに属しないから同法第十九条によりそれぞれ被告人両名から没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人両名に負担せしめない。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は被告人両名は判示第二の犯行当時いずれも心神耗弱の状態にあつたと主張するけれども、判示被告人両名の経歴、本件犯行の態様、その前後における被告人両名の行動等に徴すれば、本件犯行当時被告人らが事物の理非善悪を弁別する能力並にこれに基き行動する能力を著しく欠いていたものと認めることはできないから弁護人の右主張は採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 立山潮彦 松本武 浅野達男)

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